貧血は、日常の診療で認めることが多い疾患の一つです。当院にも、健康診断や人間ドックで貧血を指摘され受診される方が多くいらっしゃいます。実は貧血とひとことで言ってもその種類は様々で、正球性貧血、大球性貧血、小球性貧血の3つに分類します。
正球性貧血の代表的な疾患は、慢性腎障害による貧血や白血病です。
大球性貧血の代表的な疾患は、胃摘出後の貧血やアルコール依存症による貧血です。
小球性貧血の代表的な疾患は鉄欠乏性貧血です。
全貧血の約70%がこの鉄欠乏性貧血であるため、ここでは主に鉄欠乏性貧血について述べさせていただきます。
血液の中の赤血球やヘモグロビン(Hb)が減少した状態です。具体的には、血液検査でヘモグロビン(Hb)量が、成人男性で13g/dl未満、成人女性および6-14歳で12g/dl未満、妊婦および6歳未満で11g/dl未満の方を貧血と診断します。
最も頻度の多い鉄欠乏性貧血について述べていきます。日本人男性の約2%、妊娠可能女性の約25%で鉄欠乏性貧血といわれております。特に女性に多く、定期的な生理による出血のためですが、最近では偏食やダイエットによる女性の鉄欠乏性貧血も増えております。
80%以上の方が、鉄の過剰喪失によるものです。生理による出血や子宮筋腫、消化器がんや胃潰瘍、十二指腸潰瘍、大腸ポリープや痔からの出血などがあります。その他には、胃切除後の鉄の吸収障害、妊娠や授乳、成長期女性の鉄の需要増大、無理なダイエットや偏食のため鉄の摂取不足などがあります。
貧血とはヘモグロビンが減少した状態です。ヘモグロビンは全身に酸素を運ぶ重要な役割があります。したがって貧血でヘモグロビンが不足すると、体内のいたるところで酸素不足が起こります。具体的には、疲労感や倦怠感、動悸、息切れ、顔面蒼白、頭痛や眩暈がなど多彩な症状が現れます。その他に鉄欠乏が長期間におよぶと、爪の変形(スプーン爪)、舌の痛み(舌炎)、口角の痛み(口角炎)、嚥下障害、心臓の雑音などがあり、稀ですが氷を好んでよく食べるようになるなどもあります。
健康診断や人間ドックの精密検査で受診される方がほとんどです。それ以外に貧血症状で受診された方は、問診でいつからどのような症状かを確認し、眼瞼に貧血がないかを確認、聴診で心雑音の有無を確認します。鉄欠乏性貧血が疑われた場合は、採血を施行し、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット以外にも、血清鉄、血清フェリチン、不飽和鉄結合能で診断を確定させます。なお、血清鉄は血液中の鉄の量、不飽和鉄結合能は鉄不足の程度、血清フェリチンは体内に貯蔵されている鉄の量を反映しております。
ここで大切なのは血清フェリチンです。小球性貧血のほとんどが鉄欠乏性貧血ですが、膠原病や慢性炎症、癌などの悪性腫瘍も小球性貧血を示します。このなかで鉄欠乏性貧血のみフェリチンが低下するため、これらの鑑別に重要な役割を果たします。
鉄剤の内服が一般的ですが、慢性の出血を逃さないことが重要です。胃潰瘍や胃がん、大腸がん、大腸ポリープ、痔などの消化器疾患や子宮筋腫などがあれば、それらの治療を平行します。
鉄欠乏性貧血は、鉄剤の内服を開始すると急速に貧血は改善していきます。2週間程度で貧血は改善傾向を示すことが多いため、治療開始1か月以上経過しても自覚症状の改善が無ければ、慢性出血の有無や、鉄欠乏性貧血以外の貧血でないかを確認する必要があります。鉄剤の内服でヘモグロビンは1-3か月で正常化していきます。しかし血清フェリチンはヘモグロビン(Hb)の正常化から更に3-6か月かけて正常化していきます。治療終了は血清フェリチンの正常化を目安にし、年齢や性別、挙児希望の有無などで正常値を見極めて判断します。
貧血は日常診療で大変多く認められる疾患のひとつです。しかし、多くの方が健康診断や人間ドックで指摘されても自覚症状が無いため放置しているのが現状です。症状が無くとも貧血があれば、全身に酸素を運ぶために心臓が多く働かざるを得ないなど、体にはより負担がかかっております。またヘモグロビン(Hb)が正常値でも、血清鉄や血清フェリチンが低下していると貧血症状を示すことも多くあります。
一度鉄欠乏性貧血になると、医療機関での鉄剤の内服をしないとなかなか改善しません。貧血にならないためには日頃から鉄不足にならないように食事に注意することが重要です。鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があり、肉や魚、卵黄に多く含まれる「ヘム鉄」が、貝類や緑黄色野菜に多く含まれる「非ヘム鉄」よりも体内への吸収率が5倍高いとされております。
当院では、QOLの改善を目的とし積極的に貧血の検査や治療を行っております。また、さいたま市健診のひとつである『女性のヘルスチェック』でも貧血は無料で確認できます。上記の貧血のような症状に思い当たる方や、以前に貧血の指摘をされた事があるかたは、どうぞお気軽にご相談ください。
また、当院では数種類の鉄剤を使用しております。以前に鉄剤の内服で嘔気や胃痛などの副作用が出たことがある方は、胃薬と併用する以外にも、鉄剤の種類の変更などもご提案させていただきますので、併せてお気軽にご相談ください。
のなか内科 院長 野中 雅也
のなか内科は、埼玉県さいたま市大宮区(旧大宮市)に野中医院として開院し、野中病院を経て今年で78年目となります。今後もさいたま市や大宮区の地域医療を担っていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
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